Lesson1-2 世界各国のマナーの成り立ち

西洋のマナー・エチケットの成り立ち

古代ギリシャ・ローマ時代／キリスト教と封建制度

西洋でもっとも古いマナーの源流といえるのが、『旧約聖書』にあるモーゼの「十戒」です。
十戒の中では、絶対的な存在である「神」によって正しい行為とそうでない行為の全てが判断されており、人が行ってはならない行為として、殺人・窃盗・姦淫などが列挙されています。

ギリシャ時代になると、科学や哲学・芸術の発展を背景に、王侯貴族などの間では次第にキリスト教の戒律が薄れ、現世での肉体的な美しさや、知性が重んじられるようになります。
その後ローマ時代になると、支配階級と奴隷階級の中間である中産階層の間で、広く一般に認められる振る舞いや行動の規範が作られていきます。

その後中世に入ると、カール大帝によりヨーロッパが平定されると、封建制の時代が始まります。封建制度とは、家臣が主君に忠誠を誓うかわりに主君は家臣に俸禄を与えるという制度で、主君と家臣の主従関係を維持するために、規律やマナーは欠かせないものとして、その重要度を増していきます。

中世ヨーロッパ／宮廷を中心としたマナーやエチケットの確立

中世になるとキリスト教は庶民の間にも浸透し、道徳的な行いを重んじる傾向が強くなります。
純潔と母性の象徴である聖母マリアに対する崇拝の高まりとともに、女性全般を崇高なものとする風潮も生まれ、レディー・ファーストの文化が生まれてきます。
この貴婦人への献身は騎士道精神にも受け継がれていきます。

11～12世紀ごろには、十字軍遠征が盛んに行われるようになります。
十字軍に加わって夫が長期間留守をする間、屋敷を切り盛りすることになった夫人には次第に公的な地位が認められるようになります。

その後、ルイ14世が君臨した17世紀には、貴族を統括するために儀式や作法が厳しく定められ、女性にも宮廷婦人としてのエチケットが厳しく定められました。テーブルマナーや会話のマナー、レディーファーストやパーティーでの心得など、西洋のマナーの基礎が確立された時代と言えます。

18世紀以降～／中産階級へのマナーの広まり

18世紀になると、フランス革命やイギリスの産業革命といった大きな社会変革期を経て、貴族層が中心であったマナーやエチケットは、経済力をつけた中産階級にも広まっていきました。

アジアのマナー

アジアはユダヤ教、キリスト教、イスラム教、仏教、ヒンドゥー教など、世界の主要な宗教が生まれた地域であり、欧米の影響を受けながらもそれぞれに独自の文化や誇りを持っている地域が多く、マナーに宗教の影響がより強く残っているのが特徴です。

特に代表的なイスラム教、ヒンドゥー教、仏教について見ていきましょう。

イスラム教

イスラム教は7世紀の前半にマホメット(ムハンマド)により開かれ、主に中東・北アフリカ・南アジア・東南アジアで信仰されている宗教で、「コーラン」の戒律を遵守することが義務付けられています。

コーランには、儀式・婚礼・礼儀作法から刑罰まで社会生活全般について定められています。信者に対する戒律はとても厳しいことで知られており、聖地に向かって祈りをささげることだけではなく、アルコールや豚肉を食べることが禁止されています。また、女性は保守的で、頭を含めた体全体を布によって隠す服装をしていて、身内以外の男性との接触を嫌がります。

異教徒にまでこのような戒律が強制されているわけではありませんが、観光などでその地を訪れる場合には、戒律を軽視するような行動は控えるべきです。

また、左手は不浄の手とされているので、必ず清潔な右手で握手をする、腰を曲げないなどイスラム教徒の方とあいさつをするときには注意が必要です。

ヒンドゥー教

ヒンドゥー教は主にインドやネパール周辺で信仰されていて、キリスト教、イスラム教に次いで信者が多いといわれる宗教です。

河川の水を使った沐浴の儀式を重視する河川崇拝や、聖牛崇拝、殺生を避けるための菜食主義などが特徴です。
牛は神聖な動物として信仰の対象となっているため、食べないのはもちろん牛革製品のプレゼントなどもタブーとされます。
また、人前で男女が身体的な接触をすることも慎むべきとされているので、注意が必要です。

ヒンドゥー教のもう一つの特徴に「カースト制度」があります。
これは、生まれながらに身分や職業が決まっているという考え方で、近年憲法によってその考え方が禁止されましたが、農村では今もなおカーストによる身分制度が根強く残っている地方もあります。

仏教

仏教も宗派によって戒律やしきたりが異なるため、注意が必要です。

日本の仏教は大乗仏教と呼ばれ、インドからチベット、中国、韓国、ベトナムなど北方ルートで伝わってきたものです。一方インドやスリランカ、ミャンマー、カンボジア、ラオスなどの南方ルートを通ってタイに伝わった仏教は上座部仏教と呼ばれ、戒律が厳しく、修行によって煩悩による繋縛から解き放たれて、苦しみの輪廻の世界から悟りの涅槃の世界へと脱出することができるとされています。

国民の90％以上が上座部仏教徒であるタイでは、子どもを含めてほとんどの男性が短期であっても出家をするのが一般的です。
厳しい修行を積む僧侶は深く尊敬される対象なので、旅行者であっても女性が僧侶に触れたり、気安く話しかけたりしてはいけません。
また子供の頭には神様が宿っていると信じられているので、子どもの頭をなでることも禁止ですので注意しましょう。

「郷に入っては郷に従え」。どのような場合でも相手の信仰や信条に対しては最大限の敬意を払うことが大切です。